¥1900
合計

¥1000
ゴムベラなど100円ショップで購入した器具
約¥500分
¥400
寒冷紗(布)
ハイセル OH-1AX(溶剤)

− 苫小牧市錦岡における16世紀以降の火山灰層の事例 −

このページでは,2008年に第四紀地球環境研究室の巡検(地球システム科学調査研究法T)で観察した北海道苫小牧市錦岡の人工露頭において,巡検後に作成したはぎ取り標本の作成方法を解説します.
地層のはぎ取り標本は・・・
・現実の露頭観察の代わり
工事などで消滅する可能性のある露頭の保存
・地域住民向け,学生向けの展示
等のため有効な手段です.
地層のはぎ取りは,土壌学の分野を中心に手法の開発,適用が進んだという歴史があります.土壌学では断面標本のことを「土壌モノリス」と呼び,1890年代にロシアで試みられたことに端を発します.この時の標本は,1894年のアメリカのシカゴで開催された万国博覧会に出品され,この後にアメリカから全世界に広まったそうです(浜崎ほか,2002). 
 現在では,土壌学分野だけではなく,地質学や地理学,考古学などで様々な地層のはぎ取りがおこなわれるようになりました.はぎ取り対象となる地層は,軟質な土壌だけではなく,河川が運搬した砂礫層や,活断層の断面,遺物を含む遺跡の地層など様々です. 

基本的には簡単に誰でもはぎ取ることができ,経費もあまりかかりませんが,対象とする地層の種類によって,最適なはぎ取り方法を用いる必要があります.このページでは,北海道苫小牧市の錦岡で観察できる,主に火山灰や軽石から構成される地層のはぎ取り方法について紹介します.
図 1 苫小牧市錦岡の位置と周辺における16世紀以降に活動した主な火山
北海道南西部には16世紀以降何度も噴火してきた,駒ケ岳,有珠山,樽前山などの火山があり(図 1),苫小牧市付近はこれらの火山噴火による噴出物が多く堆積しました(鈴木ほか,2007).火山灰の厚さや,どこから飛来した火山灰なのか,どれくらいの頻度で火山灰や軽石が降り積もるのか,を考えることは,噴火の歴史を解明したり,今後もし周辺の火山が噴火した時の対策を考える上で重要です.苫小牧市錦岡付近の地層は,北海道南西部の火山噴火の歴史を詳細に記録している可能性があります.
写真 1 苫小牧市錦岡の露頭写真
上の写真 1は,苫小牧市錦岡で観察される地層の断面写真です.ほぼ水平な地層の縞々は,火山灰や軽石などの火山噴出物や,腐植質土壌,洪水性の砂礫や粘土です.写真下部の黄白色〜褐色の粒子の粗い層は,1663年の有珠山の噴火によってもたらされた軽石(Us-b)です.このほかにも軽石や火山灰の層が数多くあり,北海道南西部の16世紀以降の噴火の記録を連続的に保存している可能性があります.大変貴重な露頭であることや,視覚的にも地層の重なりがわかりやすいので,この地層のはぎ取り標本を作製することにしました.
錦岡で観察された火山灰の詳細についてはコチラのページ
・溶剤(ポリウレタン系合成樹脂:ハイセル OH-1AX)
・ペットボトルなどに入れた水
・目の粗い布(寒冷紗)
・バットや洗面器
・釘
・菓子用ゴムヘラ
・はけ
■ はぎ取りのために用意するもの
*溶剤は本来工事用のものです(工事現場での土ぼこり飛散防止).インターネットで容易に注文可能です.水と混ぜると数分で固化が始まり,数10分〜数時間でハリウッドの特殊メイクのゴムのように固まります.はぎ取りの溶剤としては「トマック」の方がメジャーですが,ハイセルの方が人体に対する危険性が少ないようです.1斗缶で2〜3万円くらいですが,一回に使う量はわずかなので,今回のはぎ取り程度なら何10枚も剥ぎ取ることができます.きちんと密封保存すれば数年程度保管可能です.

*「寒冷紗」は程よい目の粗さを持つこと,強度があること,そして何より安いことからはぎ取りに最適な布の一つです.服飾用あるいは農業用として販売されていますので,ホームセンターや生地屋さんで入手可能です.1×1mで数100円.対象とする地層に合わせて色々な種類の布で試してみるのも良いでしょう.

*刷毛やタワシは,溶剤が固化した後の再使用がほぼ不可能なので使い捨てと割り切りましょう.菓子用ゴムヘラや溶剤を混ぜるバット・洗面器は,溶剤が固化した後にベリベリはがせば再利用可能です.いずれも¥100均一ショップで購入できるもので充分です.

*新聞紙,ビニル手袋は多めに準備しましょう.溶剤がはぎ取り対象の地層以外の場所につくと,はがすのが大変です.特に,衣服や道路のアスファルトに溶剤の原液が染みると二度と取れません.周囲に溶剤をつけないためにも,新聞紙を引いて作業をすると良いでしょう.皮膚についた場合は数時間〜数日で自然にとれます.
■ はぎ取りの作業手順
*はぎ取り面が平らになるように丁寧に作業しましょう.
*大きすぎると重くなるのではぎ取り作業が大変です.また,溶剤が固化する前に広い範囲を塗る必要があり,難易度が上がります.初めてチャレンジする場合は30cm×30cm程度が良いでしょう.
*透明な溶剤に水を入れると白くなり,すぐに固化が始まります.はぎ取り対象によって希釈濃度を変更しても良いです.ここからはスピード勝負の作業となります.
*布の上から露頭面に溶剤をなすりつけるように塗るのがポイント.早く塗らないと布の表面で溶剤が固まってしまい,布の裏の露頭面に溶剤をいきわたらせるのが困難になります.
*ある程度粘性が増してきたら,タワシでたたくようにこすります.強くこすりすぎると,せっかく整形した地層が乱れてしまうので適度な力で.
*一人が布を持ち,同時にもう一人がハンマーやねじり鎌で布をはがす作業を分担すると効率が上がります.布の裏の地層にヒビを入れるような感覚でハンマーや鎌を使います.布を力任せにはがしてはいけません.はやる気持ちを抑えて慎重に!
STEP 1
露頭面をねじり鎌で整形する.
約30cm×100cmに切った寒冷紗を露頭面に当て,四隅を釘で固定する.
STEP 2
約300ccの溶剤をバットに入れ,水で約10倍に希釈し,ゴムベラで均一に手早く混ぜる.
STEP 3
希釈した溶剤を,露頭に貼り付けた寒冷紗の上からハケで手早く塗る.バット内で溶剤が固化し始めた場合は,ゴムベラを用いて塗る(数分以内).
STEP 4
しばらく放置して溶剤が固まるのを待つ(数10分).
STEP 5
数分で固化が始まるので,たわ
しを用いて溶剤を塗った寒冷紗を
こすり,露頭面の凹凸に対して
均一に寒冷紗を密着させる(数分以内).
STEP 6
溶剤の固化を確認し,岩石ハンマーやねじり鎌で,寒冷紗を露頭から慎重にはがす.
STEP 7
はがした標本の余分な凹凸をねじり鎌などで整形し,形を整える.
STEP 8
はぎ取り終了!!
(STEP 9)
はぎ取った標本に水をかけ,浮いた汚れや土ボコリを洗い流す.その後充分に乾燥させる.
*虫が発生したり,植物が生えてくる場合があるので,防虫剤とともに乾燥させるほうが良い.
はぎ取り標本の上から透明タイプのラッカーあるいはニスのスプレーを塗布し,充分に乾燥させる.
(STEP 10)
*ラッカーやニスを塗ることで,標本表面が固定されるとともに虫や植物の発生を防ぐことができます.また,現実の露頭と同様に湿った質感となり,観察しやすくなります.標本を展示する場合は,釘やはぎ取りの溶剤でベニヤ板に標本を貼り付け,額に入れると見栄えがします.
*より美しく仕上げる処理
■ はぎ取り標本の保存方法
額に入れずに保管する場合,しっかり固化した薄い標本は,巻いたり折りたたんだりして保管することができます.厚みがあるものや,標本表面がもろい場合は,布団圧縮袋に入れて保管することもできます.保管場所は湿気の少ない場所を選び,衣服用の防カビ剤や防虫剤も一緒に入れておきましょう.
■ その他の堆積物でのはぎ取りの例
海成砂層 (茨城県)
海成砂層中の生痕化石 (Macaronichnusの一種, 茨城県)
*米粒大の斑点模様がびっしりあるのが見えますか?
これは約12万年前の砂浜に住んでいた生物の痕跡の化石です.
はぎ取りの溶剤は,堆積物の粒度によって染み込み方が異なります.
このため,露頭観察では判別しがたい地層のわずかな模様も,
はぎ取ることで立体的になり観察しやすくなる場合があります.
*約12万年前の砂浜の地層です.
砂の縞模様(葉理構造)もくっきり明瞭に標本にできます.
*約12万年前の砂礫の地層です.
写真真ん中の色が違う部分がはぎ取り標本です.
握りこぶし大の礫も簡単にはぎ取れました.
ただし,礫層をはぎ取る場合は標本が重くなるので,
複数人で作業しましょう.
左側の白い部分は,はぎ取り前の溶剤乾燥中のもの.
海成砂礫層 (茨城県)
■ 錦岡でのはぎ取り標本作成の費用
■ まとめ
このページでこれまで紹介したように,錦岡の火山灰層のような堆積物からは,極めて安価かつ短時間本標本はトレンチ作製からはぎ取り終了までで2時間程度)で標本を得ることができました.短時間・簡単・安価に作成が可能であるため,体験学習としてもお勧めです(たとえば植木ほか,2008).

 ただし,対象とする露頭面の凹凸や堆積物の粒度,固結度,はぎ取る面積などの諸条件によって,溶剤の希釈度や塗布方法を適時変える必要もあります.様々な堆積物に試行錯誤しながら適用することで,それぞれの地層に適した安価・簡便なはぎ取り方法が見つかるかもしれません.

 今回はぎ取った標本は第四紀地球環境研究室で保管してありますので,ご覧になりたい方は研究室スタッフまで.
近藤玲介1)・鈴木正章2)・遠藤邦彦1)

(1)日本大学 (2)道都大学
■ はぎ取り地点の概要



*放置時間は溶剤の希釈度や布の上から塗った量などで適宜変更しましょう.端の方を少しはがしてみて固化していることを確認しましょう.今回は40分間放置しました.
*明らかに浮いている軽石を取り除いたり,団子状にはぎ取られた粘土の部分を平らにしたりします.実際の露頭と見比べて出来栄えを確認します.
*たたんでゴミ袋に入れて持ち帰りました.
・たわし
・ビニル手袋
・ねじり鎌
・岩石ハンマー
・新聞紙
・ゴミ袋
・汚れても良い服装
ラッカーを塗った錦岡のはぎ取り標本の上部〜中部(写真最下部はUs-bのトップ).この後にハサミで標本を四角形に裁断しました(本ページ最上部左の写真).



■ 引用文献

第四紀層を対象とした地層はぎ取り標本の作成方法

多数の火山噴火を記録する露頭
浜崎忠雄,三土正則,小原 洋,中井 信(2002)土壌モノリスの作成法改訂版.独立行政法人
 農業環境技術研究所 農業環境インベントリーセンター 土壌分類研究室資料(web),
 http:// soilgc.job.affrc.go.jp/Document/method.pdf 
植木岳雪,青木秀則,近藤玲介,鈴木毅彦:地層のはぎ取り標本の作製方法および授業での
 活用.地学教育61,P187-195.
注)写真は別な露頭
露頭の目の前で溶剤の準備をします.
鈴木正章,遠藤邦彦,佐藤昭夫,古川竜太,鈴木 茂,細野 衛,中村賢太郎(2007)
 北海道,白老平野における縄文海進期以降の沖積層の堆積過程.日本第四紀学会講演要旨集,
P84-85.