水準測量データから推定する浅間山の圧力源体積時間変化(1902-2005年)



要点


概要

浅間山周辺では1902年から国土地理院・東京大学・名古屋大学・北海道大学・気象庁によって水準測量が行われ, 約100年にわたる火山性の上下変動の議論が可能である.現在まで,個々に検討されてきたこれらデータを集め,100年間の地殻変動を明らかにした.
浅間山の山体を広く覆う水準路線で測定がなされた3期間に対して,球状圧力源(1個,2個)・ダイク(1枚,2枚)・その組み合わせの5つの圧力源モデルの是非を検討し, 球状圧力源2つのモデルが地殻上下変動の説明には最適であることを示した.
さらに,その構築した圧力源モデルによって体積時間変化を推定し,1930年〜1950年に短期的なマグマ供給率の増加があったことが推定された.同時期,浅間山では噴火回数が大幅に増加していたが,マグマ供給率の増加が原因であったと推測される.また,活動が比較的静穏であった1970年〜2005年の期間は,供給率が1930〜1950年代に比べ下がったものの,安定的な供給が続いていることが推定された.

この研究成果は,火山・地熱研究の国際誌であるJournal of Volcanology and Geothermal Research誌に掲載された.

M. Murase, K. Ono, T. Ito, R. Miyajima, H. Mori, H. Aoyama, H. Oshima, Y. Yoshida, A. Terada, E. Koyama, T. Takeda, H. Watanabe, F. Kimata, N. Fujii, Time-dependent model for volume changes in pressure sources at Asama volcano, central Japan due to vertical deformations detected by precise leveling during 1902-2005, Journal of Volcanology and Geothermal Research, 164, 54-75, 2007

成果の内容

はじめに

浅間山は20 世紀前半(特に1930年〜1960年)に,活発な噴火活動をおこなっている.その後,20 世 紀後半は散発的に噴火は見られるものの概して静穏であった.このような火山活動度の違いは,何によって生じるのか大変興味深い研究テーマである.
浅間山周辺には,主として国土地理院と東京大学によって密な水準測量網が作られ(図1),国土地理院,東京大学・名古屋大学・北海道大学・気象庁によって水準測量が繰り返し行われたことにより,1902 年からの約100 年に及ぶ地殻上下変動データが蓄積されている(国土地理院一等水準成果,宮崎,1990,木股・他,2005).約100年間にわたり,火山の地殻変動が明らかになっている火山は,世界でも貴重な例であるといえる(図2).この観測データより,火山活動が活発な時期と静穏な時期の両期間の地殻変動を議論することが可能である.
本研究では,上記水準測量データを使用することで,1902 年から2005 年までの浅間山圧力源の体積変化を推定し,噴火活動と圧力源体積時間変化の関係について議論をおこなった.


図1.浅間山周辺の観測点


図2.国道18号線水準点(浅間山南部)の上下変動(1902〜2005)

水準点位置は図1参照.水準点554を不動点と仮定した場合の相対的な上下変動.

圧力源モデル

浅間山の圧力源は宮崎 (1990)によって議論されているが,圧力源2個のモデルが検討されただけにとどまっている. また,当時は計算機の能力が十分ではなかったために,火山性地震の震源情報や地質情報を用いて球状圧力源の位置を固定し,深さのみが推定された.
したがって,本研究では,圧力源形状(球状(1個,2個),板状(1枚,2枚),その組み合わせ)・位置・体積増加量を,先見情報を用いることなく推定をおこなった. 山体をカバーするデータの存在する3 つの期間(1935−1939・1939―1950/53・1990-2005)において遺伝的アルゴリズムを用い各モデルの最適パラメータを推定した.モデル間の優劣を赤池情報量基準(AIC) を用いて判断することで,最適モデルを得た.

    

図3.1935−1939,1939―1950/53,1990-2005の3期間に測定された上下変動と,その変動を説明する最適モデルによる計算値


図3は,1935−1939,1939―1950/53,1990-2005の3期間に測定された上下変動を説明するのに最適とされたモデルによる計算値と観測値を比較している.3期間とも,誤差の範囲内でよく位置していることがわかる.

    

図4.推定された圧力源位置と深さ


上記3期間から推定された圧力源位置を集約したものが図4である.山頂直下海抜−1km と山頂4km 西方,海抜−6km の2 つの球状圧力源が最適解と判断された.異なる期間の測定結果から 同じ場所に圧力源が推定されたという結果は,推定された圧力源が一時的に生じたものではなく長期間安定に存在したことを示唆する.この特徴から,推定された圧力源は,浅間山のマグマ溜りであると思われる.


圧力源の体積時間変化

推定期間中に圧力源は位置が変化せず,圧力源の体積変化がなめらかに進行すると仮定し,赤池ベ イズ情報量基準(ABIC) を用いたインバージョン解析により1902−2005 年の圧力源体積の時間変化を推定した.
    

図5.浅間山における(a)1902年〜2005年の圧力源体積時間変化と(b)年間噴火回数


その結果を図5に示す.噴火活動が活発化 した1930 年から深部の圧力源で急激な体積増加 の加速が見られ(図5a),1940 年代の噴火活動の ピークに対応する(図5b).その後,噴火活動が低下する と同時に,1943 年以降収縮に転じ,1960 年以降 はわずかな増加に転じている.この結果はマグマ 供給量の変化が火山の活動期・静穏期に深く関わ っていることを示唆する.
浅間山で得られた結果を,長期間にわたり地殻変 動と噴火の関係が議論がなされている桜島と比較 する.石原(1975)は「桜島の上下変化と噴火活 動の関係は,静穏気の姶良カルデラ付近の隆起, 噴火活動期の隆起の停滞もしくは沈降によって特 徴付けられる」と述べている.これは定常的にマグ マが桜島に供給されている結果と解釈できる. 一方,浅間山における20 世紀の地殻変動は桜島と は異なり,噴火活動時に隆起が観測されている. また静穏であった20 世紀後半に隆起が停滞しているようである.つまり,浅間山では桜島のような定常的なマグマ供給ではな く,間歇的にマグマが供給されていると考えられる.
そして,間歇的に供給された60×106m3 に達する多量なマグマによって20世紀前半の 活発な噴火活動期が誘発されたと考える.



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最終更新:2009年2月10日